西京極 紫の館

京都サンガF.C.サポーターの日常をつづるblog。試合観戦のレビューの他にも趣味の映画や音楽、読書の感想なども書いていきます。

正しいリメイクの形


今冬のアニメの中で注目していたどろろ
あらためて説明するまでもないとは思いますが、
マンガの神様・手塚治虫の名作のリメイクです。

この『どろろ』は、主人公の百鬼丸がコソ泥の少年・どろろと旅をしながら
魔物を退治して、奪われた身体の部位を取り戻していくというオカルト時代劇です。

このマンガの優れている点は、主人公の百鬼丸が最初全身人工物で創られた
サイボーグのような存在で、両腕に刀、脚に硫酸液を仕込んであり、
魔物に対して無双の強さを持っていたにも関わらず、
魔物を倒して身体が生身に近づいていくほど弱くなっていくという
一種のジレンマを抱えるキャラ設定にあります。

お話が進行するにつれて主人公がドンドンパワーアップして、
それに対抗する敵の能力もインフレする『ドラゴンボール』や『ワンピース』とは真逆。

それによってお話が最後までダレずに緊張感が持続するという仕組みです。

また手塚先生が、当時の『ゲゲゲの鬼太郎』ブームに触発され、
「僕にだって妖怪描けるもん!」と描き上げたとも言われています。

水木しげる先生の描く妖怪は民俗学に根差し人間的で愛嬌があるのに対して、
どろろ』に登場する妖怪たちは、どこまでも異形で、
人間の心の奥底の闇の部分が具現化したものの様に思えます。

昔からやたらヒネくれた子供だった僕は、
その闇の中の異形に魅力を感じていました。
どろろ』は手塚マンガの中でも僕の一番のお気に入りでした。

そのリメイクですから観ない訳にはいきません。

現在のところ6話目までが放映されていますが、
手塚ファン、どろろファンとして、とても満足しています。

さすがに半世紀近く昔のマンガが原作なので、
そのまんま忠実にアニメ化したんでは今の視聴者は納得しません。
原作ストーリーの大筋は守りつつ、いくつか新しいチャレンジをしてくれています。

ひとつは百鬼丸の腕の仕込み刀の構造。
原作では刀の茎(なかご:柄の中に納まる部分)がどうなっているのか曖昧でしたが、
リメイク版ではきちんと肘関節を曲げると外側に突き出る様になっています。
原作の構造的不備を修正してくれているのですね。

そして第5話では一旦取り戻した生身の脚を
再び魔物に食われるというアクシデントも描いています。
これも原作を読んでいた時は考えもしなかった事態ですが、現実であればありそうな事で、
それに敢えて言及したアニメ制作陣のチャレンジ精神に敬意を表します。

また主人公の百鬼丸が初めて声を出すのも第5話という斬新な試み。
ちゃんと声優さんを充てているにも関わらず…
原作では声帯を取り戻すまでは「腹話術でしゃべっている」という
医師免許を持っている手塚先生らしからぬトンデモ設定でしたが、
本作では台詞なしでストーリーを展開させるというなかなか見事なシナリオです。

他にも原作では48匹だった魔物の数を12匹に絞り込んでいるあたり、
「この1クールで完結させるぜ!」というアニメ制作陣の気概を感じさせてくれて
この先の展開に期待が膨らんでいます。

これこそ名作マンガの正しいリメイクの形でしょう。

もし手塚マンガをお好きな方、
妖怪に興味をお持ちの方、
いらっしゃいましたら是非『どろろ』ご覧下さいマセマセ!